『人生で初めて結婚したいと思った彼女。その出会いと別れ⑥』予想外の来客

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ミクジン
ミクジン

寝ぐせの王様、ミクジンです

彼女を嫁にくださいと言ってみたもののうまくいかず、ついに婿に入ることを決めたオレ。

心の中では「将来根こそぎ奪い取ってやる」と叫んでいましたが…。

それでは続きを。

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仕事を辞める

彼女の家に婿に入ると決めたオレは、会社を辞めることにしました。 

山形市の営業所の所長に辞めたいことを伝えると、とても残念がっていました。


営業所の平均年齢は約50歳。

オレは当時、一人だけ20代で一番若かった。


先輩も後輩も父親並みに年上という所だったので、とても期待されていたんです。

それはもう、みなさんにとてつもなく可愛がってもらったのを覚えています。

特に、仕事帰りになると毎日のように持ってきてくれる差し入れ。


「若いのに一人で暮らして偉いなぁ。食べ物くらいはしっかり食べなよ」

そう言っていろんな人が差し入れを持ってきてくれました。


その量は結構すごくて、日によってはご飯すら炊かなくてもいい程でした。

中には『面と向かって渡すと気を使わせるから』という理由で、オレのロッカーに大量のインスタントラーメンを入れてくれてたり。


お返ししたかったけど、結局誰か分からなかったな。

そんなふうにみなさんに可愛がってもらってたので、辞めるときは辛かった。


「幸せになれよ!」


最後の日はそう言われながら全員に見送られ、会社を辞めたのでした。

アパートも同じ日に引き払いました。

荷物は前もって彼女の実家に運んでいたので、その日のうちに彼女の実家に移り住むことになりました。

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牛使い生活開始

さぁ始まりました、牛使い生活。

これまでは日中しか手伝ってなかったけど、本格的にやってみたら朝から晩まで牛の世話に追われる毎日になりました。

朝は4時起きで、仕事が終わるのは夜の8時くらいという長時間労働。

もちろんちょこちょこ休憩はあるけど、生き物が相手なのでとにかく休みの日がない。


そして体は常に牛の臭い。

もう、自分の臭いなのか牛の臭いなのか分からなくなりました。

でも人間って不思議。

慣れると自分じゃ臭いが分からなくなってくるのですよ。

タバコの臭いもそういうことなんだろうな。


ちなみにオレが婿に入ると言ってから、彼女の親父は人が変わったように優しかった。

もちろん相変わらず無口だったけど、

「疲れたら休めよ」

「栄養ドリンク飲むか?」

今まで聞いたことない言葉のオンパレード。

そんな親父を見て、どれくらい家業を大事に思っているのか少し分かった気がしました。


それがどおおおしたああああ全部奪い取ってやるぜぇぇぇ!!お前のもんはオレのもんじゃぁあああ!!

オレがそう思ってたのは言うまでもありませんけどね……くくく。


そんなこんなで、すぐに牛使い生活にも慣れることができました。

このまま1ヶ月くらいしたら、自分の親に婿に入ることの了承を得て結婚しようという計画にしていたのだけど…。


今考えると勢いがすごいな。

自分の親にまだ一言も言ってないのに、仕事を辞めて彼女の実家に住み始めるとは…。

恋は盲目って誰かが言ってたのは本当だ。

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予想外の来客

牛使い生活を始めて2週間程経った頃。

みんなで夜ご飯を食べている時でした。 

「ただいま」

玄関の扉が開く音が聞こえ、誰かが入ってきました。


え?誰…?

みんな手を止めて顔を見合せました。

茶の間まで勝手に入って来たその人物を見た時、彼女が言いました。


彼女「お兄ちゃん」

は?お兄ちゃん?

家業を継ぐのが嫌で、数年間行方不明になってたという噂のお兄ちゃん?


兄「帰ってきました。今まで音信不通ですいませんでした!!」

突然土下座で謝り出すお兄ちゃん。


はぁああ?

何この展開。ドラマ?

オレはわけが分からず、ただ見ていることしかできなかった。


親父「何しに帰ってきやがったてめぇ!」

キレる親父。

そして土下座する息子の胸ぐらを掴む。


親父「出てけ!お前なんか息子じゃねぇ!!」

胸ぐらを掴んだまま、外に息子を連れ出す親父。


殴らないのか…。

オレのことは騒ぐ前に殴ってたくせに。

こんな時になぜかそんなことを思っていた。

親父は息子を外にぶん投げて、玄関の扉を閉めて戻ってきました。


あまりに突然の展開で、オレはもちろん母も彼女も動くことはおろか、何も言うことができなかった。



…突然帰ってきた行方不明の兄。

何年も逃げてて、オレが住み込み始めたこのタイミングで現れるってすごいなおい。

でもずっと逃げてたのに今更だよね。

あの親父じゃなくても追い出すさ。

この時の自分はそんなことを思っていたけど…。


兄が帰って来るとどうなるのかそこまでは全然考えていませんでした。

そしてまさか、後日とんでもない展開が待っていようとは…思いもしていなかった。

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