この記事には広告を含む場合があります。記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。
寝ぐせの王様、ミクジンです
その日、なぜかは分からないけど無性にラーメンが食べたくなった自分がいた。
そんな時はいつもなら近場の安めのラーメン屋に食べに行く。
だけどその日はなぜか、食べたことのない、ランキングに載るようなめちゃくちゃうまいラーメンが食べたかった。
気の向いた時に、気の向いたことができる。
そうか、これが自由かあああ!
もしかしたらオレは、何もなくなった今を「自由なんだ」と自分に言い聞かせたかっただけなのかもしれない。
ランキングを検索してみた結果、1時間後に開店で今から行くには距離もちょうどいいラーメン屋を見つけた。
よし、行ってみるか!
オレは車を走らせた。
ヤンキー兄さんに話かけられる
ラーメン屋に到着すると、すでに並んで開店を待っている人達が15人ほど。
開店まではあと30分くらい。
オレも一緒に並ぶことにした。
曇り空で寒かったけど、なんなんだろうこのワクワクした気持ちは。
ラーメンを食うために並ぶのなんて数年ぶり。
ひとりじゃなかった時は忙しかったし、「節約節約」と騒がれていたのでこんなことできなかったもんなあ。
ラーメン屋に来て、忘れていた大切な何かを思い出したような感覚だった。
…って何をおおげさなこと考えてるんだ。
ラーメン食いに来ただけだろうがっ!
開店10分前になると、店員さんがメニューを持って注文を取りに来た。
たくさん人がいるから、開店と同時に食べ物を出せるように配慮してるのかな。
すでに並んでいる人は30人くらいになっていた。
前の方から順番に注文を取ってくる。
常連さん多いのかな?
結構サクサク進んでくる。
どうしよう、店だけ調べてオススメのラーメンよく見てなかったぞ…。
「お兄さんここ、初めてですか?」
ふいにオレの後に並んでいる人が話かけてきた。
見るとツンツン頭の茶髪でツナギを着た、ヤンキー的な若い男だった。
オレは言った。
「そうなんですよ、あなたは?」
聞くと男はニコッと笑って言った。
「俺はここ大好きで週に6回は来てます。お兄さん見ない顔だったので、オススメのメニューとか分からないかなーと思って」
週6ってすげえ…。
もうベテランじゃないか。
見た目は怖いけど、なんだか良い人そうな雰囲気をかもし出している彼。
オレは正直に言った。
「週6ってすごいですね。ちょうど今何にしようか迷ってたんですよ」
すると男は満面の笑みで語りだした。
もう「待ってました」と言わんばかりの語り具合。
オススメのメニューを教えてくれるばかりか、自分がラーメンを好きになった理由から、ここ以外にも週5で食べに行ってるラーメン屋がおいしくてオススメだとかなんとかすごかった。
ここが週6で他店が週5?
1日で2食ラーメン食ってる日が多くない?
もはやこわいよ兄さん。
そう、彼はラーメンバカだった。
ヤンキー兄さんに申し訳ない気持ちになる
彼によるとここは味噌ラーメンが有名で、『ニボシ味噌ラーメン』が特においしいと評判らしい。
客のほとんどはそれ目当てに来てるとか。
でも、と彼は言う。
「実はもっとうまいラーメンがあるんですよ。ただの『醤油ラーメン』なんですけどね、衝撃でオシッコちびるくらいうまいです。ただ、味噌ラーメンがうりなんで、醤油ラーメンはほとんど量を作ってなくてすぐに売り切れちゃうんです。開店してから並ぶんじゃ絶対に食べられない。俺はいつも醤油ラーメン食べに来てるんですよ」
通じゃなきゃ知らない情報きた!
実はオレは大の醤油ラーメン好きだ。
ラーメンバカが週6で食べたい醤油ラーメン…そんなこと聞いたらもう、醤油ラーメンを食べる以外に選択肢がないじゃないか。
彼はまだ楽しげにしゃべり続けていたが、気が付くと注文がオレの番になっていた。
店員のお姉さんにメニューを渡され、注文を聞かれたオレは…。
「醤油ラーメン大盛りで」
迷うことなく言った。
ヤンキー兄さんがとても嬉しそうに、オレに爽やかな笑顔を向ける。
そうか、自分がすすめたラーメンを注文されるのがそんなに嬉しいのか。
このヤンキー兄さんは本当に誰よりもラーメンが好きなんだな、本物のラーメンバカや!
なんだかオレはヤンキー兄さんがちょっと好きになってきた。
よおおおし!
ちびる程の醤油ラーメン、食べてやるぜ!
ヤンキー兄さん、一緒にちびろうぜ!
そして次はヤンキー兄さんの注文の番。
「俺も醤油ラーメン大盛りで」
すると店員のお姉さんの顔がちょっと曇る。
あれ、どうしたのこれ。
「申し訳ありません。醤油ラーメンは先程の方で売り切れになってしまって…」
えええええええ!?
オレで最後!?
ヤンキー兄さんの顔を見ると…、
ああああああ!
信じられないくらいガッカリしてる。
おもちゃを買って欲しくてさんざん泣き叫んだのに、やっぱり買ってもらえなかった子供の帰り道みたいな顔…。
泣くんじゃないか…?
いやもう泣いてるのか…?
「あ、じゃオレ違うの頼みますよ!ニボシ味噌ラーメン有名なんでしょ?それで!」
オレは慌てて言った。
そこまで醤油ラーメン食べたいなんて…オレごときが奪い取っていいものじゃないと思った。
世の中には本当に心から醤油ラーメンを必要としている人がいる。
それは彼に違いない。
ところがヤンキー兄さんはハッと我にかえった顔で言った。
「いや俺がニボシ味噌ラーメン食べますよ。ずっと醤油だったんで、たまには味噌と思って来たんです今日はハハハ。いやあ、早く食べたい!そんなわけでほら、お姉さん次の人に注文取って待ってるから」
ヤンキー兄さんはそう言って、お姉さんをさっさと次の人にまわした。
オレはなんだかヤンキー兄さんに申し訳なくて仕方なかった。
「ごめんね、オレで最後だとは…」
「気にしないでください。俺なんて数えきれないくらい食べてますから!どうせ俺はすぐまた来ますし、今日は味わってってください。絶品ですよ!へへへ」
ヤンキー兄さんは少年のように笑った。
…なんかね、ラーメン食べに来ただけなんだけど、この時なんだかあったかい気持ちになったんだ。
本当に好きなものにはまっすぐになる
ヤンキー兄さんから譲り受けた『醤油ラーメン』、本当にちびるほどおいしかった。
間違いなくこれまで食べた醤油ラーメンの中で一番と言ってもいいほどの味に、オレはスープまで完全に飲み干した。
店内が混雑してて座る場所は違ったけど、オレが醤油ラーメンをうまそうに食べるのを見て、ヤンキー兄さんは本当に嬉しそうな顔をしていた。
ラーメンのことであんなに熱く語り、自分が食べれなくても自分のことのように喜ぶ彼。
本当に彼は楽しそうに見え、人って好きなものにはまっすぐになれるもんなんだなあと思った。
オレも前はあんな顔で笑っていたのかな。
自分が貧乏くじを引いたとしても、今はもうそばにいないあの二人が楽しそうなら、オレはそれだけで嬉しかった。
それはやっぱりヤンキー兄さんと同じように、二人のことが本当に大好きだったからなんだ。
そう考えるとなんとなく、二人を大好きだったことは間違いじゃなかったのかなと思えた。
いろいろあって全部が間違いだったみたいに思ってたけど、そうじゃなかったのかもしれないな。
またあのラーメン屋に行きたいなあ。