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寝ぐせの王様、ミクジンです
今年もやってきましたねバレンタインが。
学生時代はこの日がくると意味不明のソワソワ感があって、靴箱やロッカーを開ける時にドキドキしたり、帰りに誰か待ちかまえてるんじゃないかって警戒したり、変に自意識過剰になる日でした。
もらえるわけねーのに…。
くれるのはバイト先のおばちゃんか、自分の母ちゃんくらいなのに…。
懐かしいなぁ。
大人になった現在は身の程を知り、今年なんかまったくソワソワもドキドキもしなかったうえに、予想通りひとつもチョコもらえませんでしたよコンチクショウ。
それにしてもこのイベントがくると、昔付き合っていた彼女がくれたチョコを思い出します。
あれは20代前半の頃かな。
たぶん生涯忘れられないくらい、とても心に残る魔法のようなチョコだったので…。
今回はその話を書いてみたいと思います。
彼女の料理は魔法の料理
彼女は魔法の料理を作る人でした。
20代前半の当時、オレは一人暮らしをしてて、彼女とは遠距離恋愛。
といっても彼女の家まで60㎞くらいだったので、車だと約1時間くらいの距離。
遠いような、近いような。
そんな遠距離恋愛でした。
彼女とは休みがなかなか合わなかったのですが、彼女が休みの日にはわざわざオレのアパートに来て夕飯を準備してくれてました。
仕事が終わって帰った時に、『お疲れ様!』などの書き置きと夕飯の準備があると、本当に嬉しかったのを覚えてます。
ちなみに彼女は実家住まいで、親が厳しくて門限があったので、なかなか一緒に食べることはできませんでした。
そんな優しい彼女だったんですが、少し変わった性格の持ち主でもありました。
いろいろエピソードはあるけど、今回と関係あるのは『料理』に関して。
ちょっとね、変わったものをお作りになる方だったんですよこれが…。
なんと彼女が作ってくれてた必殺の料理は、
- 野菜しゃぶしゃぶ
- 湯豆腐
この2つのみだったのです…!
文字通り、切った野菜をただのお湯(ダシもなし)にしゃぶしゃぶしてポン酢で食べる料理です。
そうですね、よく考えると、
ただのお湯にひたした野菜ですね。
仕事から帰るとよく準備してありました。
テーブルの上に、切った野菜とカセットガスコンロと、ただの水をはった鍋が…。
なんとなく察しがつくと思いますが、 豆腐をただのお湯(ダシはもちろんなし)の中に入れて、温かくなったらポン酢で食べる料理。
この料理、簡単に言うと、
温かい豆腐…ですね。
仕事から帰るとよく準備してありました。
テーブルの上に、切った豆腐とカセットガスコンロと、ただの水をはった鍋が…。
えーと、以上が彼女の料理です。
週に数回はこれが夕飯でした。
ツッコミどころが満載な気がしますが、当時はもう本当に嬉しかったし、めちゃくちゃ美味しかった。
すごく感謝して食べてたなあ。
それに彼女もギャグとかじゃなくて、本気で喜ばせようと作ってくれてたんですよ。
あれ、ギャグじゃないんです。
今思えばちょっと変わった料理しか作れなかった彼女だけど、オレはあんなに喜んで、美味しく食べて、とても幸せだった。
あれはきっと、彼女しか作れない魔法の料理だったんだと思います。
珍しく連絡がなかった彼女
そんな魔法の料理が作れる彼女ですが、とあるバレンタインの数日前にメールが届きました。
『バレンタインの日、仕事だからチョコはバレンタイン過ぎてからになっちゃいそうなの。ごめんね』
なんだよも~、気にしなくていいのに。
でもなんだか、その気持ちが嬉しかった。
そして迎えたバレンタインの日。
仕事を終えて携帯を見ても、先に仕事が終わっているはずの彼女からメールがきてなくて不思議に思いました。
というのも、彼女は極度のさみしがり屋で、起きた時や寝る時、休憩時間や仕事終わりはもちろん、お互いに自由な時間帯は、四六時中メールや電話をしていないとだめな人だったんです。
オレが10分くらいメールを返さないでいると、速攻電話がかかってくるくらいのさみしがり屋ぶりだった彼女。
いつもなら、彼女が先に仕事を終えてメールしてきてるはずなんだけど…。
珍しいなあ、残業かな?
『仕事終わって今から帰るよ』
オレはとりあえず、彼女にメールを入れてアパートに帰りました。
彼女からのサプライズ
連絡がないことにちょっと心配しつつも、オレは暗い夜道をトボトボと歩いて帰りました。
結局、アパートに着いても連絡はこないまま。
どうしたのかなぁ、と思いながらアパートのドアを開けて中に入りました。
六畳一間の狭いアパート。
電気を付けた瞬間に…驚いた。
部屋の真ん中にあるコタツ。
そのテーブルの上にはいつもの夕飯の準備と、可愛らしいリボンの付いた箱が置いてありました。
そして箱の下には何やら手紙らしきものが。
え?仕事って言ってなかった?
めちゃくちゃビックリした。
オレをビックリさせたくて、わざと仕事だってウソ付いたのかな。
オレは箱の下の手紙を読んでみました。
これは今でも全文覚えてます。
『へへっ。ビックリした?実は仕事ではなかったんです。ビックリさせようと思ってこっそり昼間に侵入してチョコ作りました。嬉しいでしょ?感謝してもっと好きになりたまえ、はっはっは。涙もろいからこれ見て泣いちゃうんだろうな。落ち着いたら夕飯も食べてね、いつもよりおいしいよ。お仕事お疲れ様。大好きだよ』
いやあ、悔しいけど泣いた。
いろいろあってあんまりまともに会えないけど、それでも毎日をがんばれるのは、やっぱり彼女のおかげだと思った。
リボンをといて箱を開けてみる。
中には、ひと口で食べれる大きさのハートの形のチョコが並んでいました。
形はどれも少しいびつだけど、がんばってがんばってハートの形にしようとしたのがなんとなく分かった。
あたふたしながら作ってる姿が浮かんだ。
オレは泣きながらひとつを口に入れました。
こんなうまいチョコ、食べたことなかった。
魔法のチョコ
しばらくして落ち着いたあと、さて夕飯を食べようと思いました。
食べたあとにゆっくり電話しよう。
……え?
そこで気付いてしまった。
テーブルの上にはいつものカセットガスコンロと、水のはった鍋と、皿の上には切った豆腐がラップして置いてある。
あれは彼女の必殺料理、湯豆腐。
でもその豆腐が、明らかにおかしい。
ひとつ…黒くね?
『落ち着いたら夕飯も食べてね、いつもよりおいしいよ』
さっき見た手紙の文章が頭に浮かびました。
おい、まさかあれ…。
オレはラップを取り、豆腐を見ました。
黒い豆腐は、チョコでした…。
ひと口かじってみました。
やっぱり…チョコでした。
かじった瞬間に笑いが込み上げた。
いやあ、笑った笑った。
バカみたいに大声で笑った。
豆腐の中にチョコをまぎれこませるなんて、誰も思い付かないよ!
わけ分かんないけど、さすがやることがひと味違うぜ!
泣いたあとに大笑いしたせいで、きっとその時オレの顔はグシャグシャだったに違いないと思う。
彼女なりに一生懸命、オレのためを思って、いろいろ考えてやってくれたんだな。
本当に嬉しかったし、オレは世界一の幸せ者だと思った。
ありがとう、絶対に忘れられないバレンタインになったよ。
彼女のチョコは、心の底から元気をくれる、魔法のチョコでした。
最後に
いやあ、懐かしいですね。
湯豆腐のひとつがチョコ、なんて体験はしたことがなかったので、これはきっと生涯忘れられないと思います。
泣かせてからの笑わせっぷりがすごい。
バレンタインになると思い出す話でした。