忘れないよ、今なら分かるからさ

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昔の記憶は断片的だ。

遠い記憶になればなるほど、虫に食われたみたいに記憶の穴が大きくなっていく。

缶けりや鬼ごっこ、虫を捕まえたことや、友達と笑ったことやケンカしたことも。

もしかしたら大切なことでさえも、所々が底の見えない穴の中に、沈んだまま見えなくなってしまっている。

でも、思い出せない記憶は穴の底に消えてしまったわけではなく、眠りについているだけなのかもしれない。

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約束

「中学になったら別々になっちゃうね」

恵美(めぐみ)はそう言うと、ちょっと寂しそうな顔をしてぼくの方を向いた。

「そうだね、クラスの半分くらいは別の中学になっちゃうのかな?二十歳になったら同窓会しようってみんなで決めたけど、まだまだだもんね」

ぼくもちょっと寂しかった。

仲のいい友達も、半分くらいは別の中学校だったような気がする。

その中の一人が恵美だった。

日曜日の夕方。

恵美とぼくは土手を歩いていた。

小学校の卒業まであと1週間。

友達の家でお別れ会をした帰り。

「あのさ、別々になって嫌だなあと思う子とかいる?」

恵美がちょっと前を歩きながら聞いてくる。

こっちは見ていなかった。

「うーん、友達が別々になるのはやっぱり嫌だなあ」

ぼくは答えた。

「友達みんなとかじゃなくて、誰か、この子は特に嫌だなあって子はいないの?」

恵美は前を向いたままだ。

と、その時恵美の肩に何か虫が止まった。

小さいから気付いてない…なんだあの虫?

「別々になるのが特に嫌な子?うーん、恵美とは仲がいいから恵美かな」

そう言いながらぼくは虫が気になっていた。

…あれはミツバチか?

「え、わたし?…わあああ!

恵美が振り返ったとたん、ミツバチがビックリして飛び立った。

それにビックリして騒ぐ恵美。

「ぎゃあ」とか「わああ」とか、テレビの芸人さんかってくらいリアクションが激しい。

ぼくは思わず笑った。

そりゃもう腹を抱えて笑った。

「…だあああビックリした!笑いすぎだし!」

「いでっ!」

恵美に叩かれながらまだ笑いが止まらない。

腹がいてぇ。

「いいもん、どうせもうすぐあんたとはお別れになるし」

「ま、まぁまぁ。仕方ないでしょ、恵美がおもしろすぎるんだよ」

「フン!」

恵美はいじけてそっぽを向いた。

本人には言いにくいけど、ぼくは感情がダダ漏れ気味な恵美の反応がすごく好きだった。

嬉しい時も、ビックリしてる時も、いじけてる時も、なんなら怒ってる時だって見てて飽きることはない。

いつもおもしろい…とか言ったらきっと怒られるだろうな。

「でもそのフン!が聞けなくなるのも寂しいなあ。恵美といえばフン!だもんね」

速攻で怒られそうなセリフを言ってしまったけど、寂しいのは本当だった。

「ほんと?」

恵美がこっちを見る。

意外にも嬉しそうな、でもどこか寂しそうな顔をしていた。

「うん、寂しいよ」

ぼくは言った。

「わたしも寂しいな」

ふいに恵美の表情が曇る。

そして恵美は言った。

「じゃお互い寂しくないように、約束しよう」

「約束?」

「うん、約束があればそれを目標にできるから寂しくないでしょ?」

「どういうこと?どんな約束?」

「うんとね………………………………」

夢を見ていた。

たぶん、子供の頃の夢。

懐かしくて、暖かくて、そしてちょっとだけ切ないような気がする夢。

でも、なんだろう。

何かを忘れている気がする。

大事なことだった気がするのに……。

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目覚める

…誰かがオレの体をゆすっている。

目を開けようと思ったけど、瞼も体もすごく重くて動けない…というか眠い。

「 起きろーーーーー!!」

「わあああああ!!」

突然耳元ででかい声が聞こえて飛び起きた。

心臓がバクバクと音をたてる。

目の前にいたのは、恵美だった。

あれ、なんで恵美?

ここはどこ?

「あんたさ…ほんとにお酒弱いのね」

暗がりの中、月の明かりに照らされた恵美の顔が見える。

ドアの外で呆れた顔をしていた。

よく見るとオレは、車の後部座席で寝ていたみたいだった。

なんでこんなとこに?

重い頭で考える。

えーと、確か今日は…、

そうだ。

小学校の同窓会だったんだよ確か。

久しぶりの友達。

小学校の卒業以来、全然会ってない人も多くて、みんな顔も雰囲気も全然違くなっていてビックリすることの連続だったっけ。

どうやらもう結婚したやつもいるようで、今だに彼女もいないオレは、なんだかみんなより少し子供な気がした。

恵美も会うのは卒業以来。

大人になったなぁ、あいつ。

化粧っ気がないのはあいつらしいけど、大人になった恵美はなんというか…うん、まあ、かわいいですね…なぜか素直に認められないけど。

そして確か、信じられないくらい酒の弱いオレは、友達にすすめられる酒をことごとく断っていたはずなんだけど…。

なぜ寝てたんだろう?

「オレ、なんで寝てたんだろ?」

目をこすりながら言った。

「あんたがトイレに行ってる間に、あんたのウーロン茶にお酒を混ぜた人がいたみたいよ」

「くっ、あいつか!」

すぐに犯人が思い浮かんだ。

土井聡(どいさとし)だ。

高校までずっと一緒のクラスだった、腐れ縁の男友達。

親友には違いないけど…イタズラ好き。

子供の頃からよくやられたもんだ。

「どのくらいお酒弱いのか試してみたかったんだって。3口くらいで寝ちゃったから、ビックリしてオロオロしてたよ。わたしも飲めないけどあんたも相当だね…。わたし車で来てたから、乗せてあげたの覚えてる?」

「ごめんなさい全然覚えてないですそしてありがとうございます」

なぜか棒読みの敬語になった。

「そっか、でもまあ、ちょうど良かった」

ふーっと息を吐きながら恵美が言う。

「ちょうどいいって、何が?」

「まぁいいからいいから。ちょっと散歩に付き合ってよ」

恵美に手を引っ張られて車の外に出てみると、目の前には土手があった。

体が少し重くてフラフラする。

けど、ここは…。

さっきまで夢で見てなかったっけ?

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あの日のこと

さっきまで夢を見ていたのを、なんとなく覚えている。

確か友達の家でお別れ会をした帰り。

恵美と土手を歩いていた夢だったような。

「ほら、行くよー」

恵美がオレの手を引っ張って階段を上がる。

それに従って上っていく。

3月の終わり頃、夜はまだ少し寒かった。

上まで行くと今度は土手を歩きだす。

恵美はオレの手を握ったまま離さない。

オレは…何か胸のあたりがおかしかった。

なんで今まですっかり忘れてた、あの日の夢を見たんだろう。

同窓会だったから?

いや、違う気がする。

大切な何かを忘れてるような…。

「懐かしいね二人で歩くの。この土手を最後に二人で歩いたの、覚えてる?」

並んで歩きながら恵美が言う。

「うん、覚えてるよ。お別れ会の帰りだったよね確か」

さっき夢を見るまで忘れてたけど…とは死んでも言えなかった。

あぶねえ、ナイス夢!

「え、奇跡だね!あんたのことだからもう忘れてると思ってた。忘れるの得意だったでしょ?あんたが宿題忘れて何回ノートを見せてあげたことやら。さすがに体操着の袋にパジャマ入れてきた時はビックリしたけど」

まじかこいつ…なんて記憶力だ。

それはオレも覚えている。

違うんだ。

朝入れた時は体操着だったんだ。

誰かがなにかしらのトリックで入れ替えたに違いない…と思いたい。

「その節はお世話になりました」

また敬語になった。

「まあいいんだけど。でさ、そのお別れ会の帰りに、ここでわたしが言ったこと覚えてる?」

恵美がこっちを向いた。

暗くてちゃんとは見えなかったけど、真剣な顔をしていたように見えた。

これはウソは付けないな、と思った。

「…ごめん、そこは覚えてないんだ。実はさっきからずっと、何か大切なことがあったような気がしてならなかったんだけど、思い出せないんだ。ごめん」

正直に言った。

「そっか…うーん、実はそうなんじゃないかなーと思ってた。まぁ、あんたらしいっちゃらしいんだけどさ」

ちょっと寂しそうに恵美は言った。

何かが胸に込み上げる。

なんだろうこれは…ちょっと苦しい。

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片方の約束

「…ところで今、彼女はいるの?」

「いや、いないよ」

「…よし、突然だけどわたし、ここで今から、あの時の約束を果たします!…えーと、周りに誰もいないよね」

恵美が突然こっちを向いてオレの両肩をぐっと掴み、周りを見渡す。

「え、何すんの!?」

「覚えてなくてもいいんだ。でも約束だけは果たさないと、わたしは前に進めないと思う。忘れちゃったかもしれないけど、これだけは覚えておいて。わたしは…あの日から何も変わってないから」

恵美はそう言うと、オレに抱きついた。

「ずっと好きだったの」

恵美は言った。

あの元気な、強気な恵美が、今は消えてしまいそうなくらいの震える声で。

その瞬間、突然、溢れるように思い出した。

ああ、なんで忘れてたんだろう。

すべてを、思い出した。

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あの日

「約束?」

「うん、約束があればそれを目標にできるから寂しくないでしょ?」

「どういうこと?どんな約束?」

「うんとね、二十歳になったら同窓会するでしょ?その時にわたし、あんたに言いたいことがあるの」

「言いたいこと?今じゃだめなの?」

ぼくは不思議に思った。

「今じゃだめ。今言ったって言わなくたってどうせ会えなくなるでしょ?だったら楽しみにとっておいた方がいいでしょ」

「えー気になるよ」

「だから目標になるんでしょ。そしてわたしがそれ言ったらさ、答え、聞かせてね」

「答え?問題なの?」

「…はあーちゃんと覚えてるか心配」

恵美はそう言って、顔を伏せた。

恵美が何を言いたかったのかは分からないけど、離れる前にぼくも恵美に言いたいことがあったんだ。

仲良くしてくれてありがとうって。

これからもずっと仲良くしてねって。

大好きだよって。

んー、大好きはやっぱ恥ずかしいな…。

ほんとは寂しくてたまらない。

言ったら泣いてしまうかもしれない。

だから、そうだ。

ぼくも『約束』の時がきたら言おう。

それまでとっておこう。

悲しい別れは嫌だもんね、恵美。

約束が果たされる

思い出した。

恵美は言ってたんだ。

「同窓会で会ったら、言いたいことがある」

そしてオレも、言いたいことがあったんだ。

あれは…きっと恋だったんだと思う。

子供だったから分からなかったけど、恵美のことが好きだったんだ。

あれからもう8年。

それだけの長い間、恵美はずっと変わらない気持ちを持ち続けていた。

一体どんな気持ちでいたんだろう。

想像もつかない。

オレなんて、今の今まで忘れていたよ。

いや、忘れていたというか…。

あの時は離れるのが嫌すぎて、好きだという感情を「なかったこと」にしたかったのかもしれない。

バカやろうだな。

「ごめん、今の衝撃で全部思い出した。忘れっぽくてほんとにごめんなさい」

やっぱり敬語になった。

恵美はオレに抱きついたままだった。

「恵美が言いたかったことは分かった。でも実はオレも、この時に言おうと思ってたことがあったんだ」

恵美は黙って聞いていた。

「子供の頃は仲良くしてくれてありがとう」

恵美が無言でうなずく。

「これからも仲良くしてね。そして…」

この後に及んで言い淀むオレ。

まじかよしっかりしろよ頼むよオレええ!!

「恵美、大好きだあああ!!」

オレが言うと、恵美はバッ!とオレから離れて笑顔で言った。

「…フン!声デカすぎだし思い出すの遅すぎるよ!普通忘れないし、せめて同窓会で再会した瞬間に思い出すだろ!」

よく見ると、顔は涙でグシャグシャだった。

泣きながら笑いつつ、口から怒りのセリフが飛び出すとは…なんて忙しい人なんだ。

「フン!出た!それが好きなんだよオレは!やっぱ恵美のフン!はたまんねえぜ!」

この場面で自分何言ってんのと思ったけど、一度解放した心は止められない。

「フン!…まあでもよく思い出しました。誉めてつかわす」

「そんな顔面グシャグシャの人に誉めてつかわされたくないんだけど…ええ!?」

恵美がまた抱きついてきた。

すんません、こういうの慣れてないんですけど…。

「もう忘れないよね」

「うん、忘れないよ。あの時は好きだってことがどんなことなのか、自分でもよく分からなかった。子供だったんだな。でも今なら分かるからさ、もう忘れない。ごめんな」

「うん」

3月の終わり頃。

もう、寒くはなかった。

記憶

昔の記憶は断片的だ。

遠い記憶になればなるほど、虫に食われたみたいに記憶の穴が大きくなっていく。

缶けりや鬼ごっこ、虫を捕まえたことや、友達と笑ったことやケンカしたことも。

もしかしたら大切なことでさえも、所々が底の見えない穴の中に、沈んだまま見えなくなってしまっている。

でも思い出せない記憶は穴の底に消えてしまったわけではなく、眠りについているだけなのかもしれない。

だからきっと、あの時見えなくなってしまったものも、見るのが嫌で自分で隠してしまったものも、いつか見る準備ができるのを待っている。

そんな気がするんだ。 

ミクジン
ミクジン

………

…というような夢を見たので、せっかくだから小説風に書いてみました。

恋っていいなおい!!

ペンギン
ペンギン

ゲームばっかしてるくせに…

昔の恋話

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